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【音楽】CDの廃盤を無くす一つの試案。

 私達が音楽を聞く時には、マスメデイアを通じて聞く場合以外はレコードやCDといったレコード会社が販売している商品が介在する。すると今まで聞いたことのなかったものや自分で持っていなかった作品を聞くためには、まずこのレコードやCDを入手する(買っても借りても)ことが必要になる。ここで大きなストレスとなるのは、ショップに買いに行っても売っていないこと。何故?。あくまで商品としての「CD」は、当然限られた店頭では競争原理で売れるものしか扱われていない。そこにはリスナーの事情が入り込む余地はない。本来客のニーズを吸い上げるべき店頭で、客の細かなニーズなど反映されていないのが実情だ。新譜リリースにもかかわらずマイナーなものは店頭にあっても数枚、しかもそれが無くなれば当てのない入荷待ちという不条理な状況に追い込まれてしまう。しかし、ちょっと待って...。よく考えると、こんな状況は意外と簡単に解消できるのではないかと考えるようになってきた。
 CDはあくまでメディア、媒体であって、CD以外にも音楽を入手する方法があればよいのだ。私達が欲しいのはCDという商品ではなく、そこに収められている音楽そのものなのだから。であれば、音楽そのものが流通するシステムがあれば、品切れ・廃盤といった商品としてのCDの存在に右往左往することなく音楽を入手できるのではないか。

 そこで一つの試案を提言してみたい。音楽がその原盤のマスター・テープという状態で権利者の手元で保管されているのであれば、記憶媒体をテープではなくサーバという電子メディアに置き換えたらどうなるのだろうか。ワークステーション・クラスのサーバであれば、またハードディスクやストレージなどの大規模容量のマシンは現在でも企業内・企業間の情報システムで導入済みで、様々なタイプのスーパー・マシンが稼動している。プロードバンド時代に突入した通信環境においては、アルバム1枚750MB程度の情報量であれば、何のストレスも無く転送できるはず。現在の環境だって実現可能だ。とすれば、音楽データの蓄積されたサーバからシステムを管理する別のサーバ経由して、ある特定のクライアント機にデータを転送することなど、何ら技術的な問題は存在しないのだ。クライアント機に転送された音楽データを、例えばCD−Rなどに複製すれば、途中一切の既存の流通・物流システムを介することなくCDが手元に届くことになる。例えば既存の流通システムやらデジタル・デバイドの問題、さらに根源的な著作権管理の問題を考えれば、音源管理者のサーバーへは、システム全体を管理するサーバからしかアクセスできないようにするとか、システム管理サーバへは特定の資格者の操作により専用端末(クライアント)からしかアクセスできないようにするとか、クライアント機に蓄積された音楽データは1回きり特定のデバイス経由でなければ複製ができないようにするとか、様々な制限をかけるべきかとは思うけれど、こんなシステム構築は、音源のデジタル信号への移植が進めば、何ら技術的な障害は存在していないのです。ジャケットやライナーなどのデータは、音楽データに付随して転送されればよい。
 レコーディングの現場からすれば、既にデジタル化は進んでいて、ハードディスクに書き込まれた音源を操作してマスター・テープに移植するというのが主流かと思う。であれば、マスタリングしたデータをそのままパッケージ化して保存しておけば良いはずなので、新作についてはほとんど手間はかからないはずだ。

 このシステムが稼動するとどんな状況になるのか。
 レコード会社は、CDプレス工場、流通物流コストが削減されるので、商品価格は大幅にダウンする。しかし利益額さえ変えなければデータ化のコストが上乗せしたとしても利益を確保したうえで価格は大幅に引き下げられるので競争力のアップに繋がる。またオンデマンドで音楽データが流通するので、作品によってはプレスしても販売に繋がらず在庫を抱えるなどという心配も無くなる。しかも販売エリアはネットワーク経由なので、それこそ地球の裏側にだって同じコストで流通させることができるのだ。
 レコード店は、CDという物理的な商品パッケージを陳列する場所から音楽データの受け渡しをする場としてその意味が変わってくる。すなわち従来であれば店舗の物理的なスペースに依存していた商品ラインナップが、端末の先のサーバに変わるので店舗面積に関係無く、データ化された全てのジャンル全ての音楽を扱えるようになるのである。必要なのは専用端末を設置する場所と、空のCD−R、プリンタ用紙などの保管場所だけである。例えばマス・セールスが期待できる話題のアーティストのリリースがある場合には、予め客から代金を徴収する以前にデータをダウンロードしてストックしておけばよいし、場合によってはレコード会社から既存のルートを通じてパッケージ化された商品としてのCDを購入しておけばよい。物理的な条件が外されたレコード店は、CDという商品の流通最終拠点としてでなく、リスナーと直結した音楽の紹介・提案の場として姿を変えるのである。すると提案力の無い拠点には客は行かない。逆にどんなにマニアックな分野であろうとも、店主が拘りをもって紹介(情報発信)する店には客が集まるという、ある意味本来あるべき音楽流通の拠点が各地に生まれるということになるのだ。例えば専用端末を店内だけでなく、今各地にあるクレジット会社のCD(キャッシュ・ディスペンサー)機のような施設に置けば24時間音楽を買うことができる。コンビニエンス・ストアーなどでも全タイトル入手可能という状況も作れる。
 権利者からすれば、商品としてのCDが欠品・廃盤になることにより眠ってしまった作品が、オンデマンドで常に流通する可能性がでてくるわけだから、売上機会の損失が無くなる。契約が切れて自分の作品が眠ってしまっている作曲家やミュージシャンなども、自分自身で活動すれば印税が入る可能性がでてくるということになる。
 そして一番大切な音楽ファンからすると、欲しい作品が欲しい時に手に入る...まさに、夢のような状況が生まれるのだ。廃盤や欠品が無くなる...それだけだって夢のような状況だ。例えば作品の検索は自宅のパソコンからインターネット経由でできたり、事前にショップにe-mailなどでオーダーしておけば、店頭で待たされることなく希望のCDが入手できるようになるだろう。宅配サービスなども可能だろう。例えば店頭やインターネットを通じて1曲1分以内とかで試聴するサービスなどもあれば嬉しい。また価格だって下がるはず。アルバム1枚あたり、諸費用込みでも1000円前後で入手できるはず。シングル盤も500円以下になるはず。もっと下がるかもしれない。さらにショップ側の提案力向上により、より多くの素晴らしい作品に出会うチャンスも増えるはずだ。

 マスターをデジタル化してネットワーク配信する...これだけで音楽事情は激変する。こんな簡単な仕組みで、好きな時に好きな音楽が聞けるシステムが構築できるのだ。しかも現在の技術で何ら問題は存在していない。訴訟騒ぎにまでなったナプスターなどの草の根的なデジタル配信の動きは、通信環境の問題でMP3フォーマットに圧縮された音楽データが権利者と関係の無いところで蓄積・配信されたという点で問題は多かったと思う。ただし業界あげて今回提案したようなシステム構築を進めれば、八方全て上手くまとまると思うのだけれど。果たして、いかがなものでしょうか。
 IT事情に精通していない私などが思いつくシステムは、とうの昔に業界関係者の中で気付いている人はいるはずなのに、そんな動きは聞こえてこない。最近PRされているもので某レコード会社が携帯電話会社と組んでデジタル配信すると言っても、CDそのものの販売の見直しをしているなどという話は伝えられていない。実現に向けて検証すべき問題点はたくさんあるだろうが、ぜひ早期に実現されることを願いたいものだ。
(2001/07/29)


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