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【音楽】AOR系再発CDラッシュに思う...。

 Sound Community '70/'80でもお知らせしているように、大手レコード会社を含む最近のAOR系のCD発売ラッシュは驚きです。「やっとCD化が実現した !!」ものや「再発されて、これで買える」といったものなど様々ではありますが、これはまさに異常事態です。こんなに短期間にしかも大量にリリースしてレコード会社の人達は、そのCDを一体どうするつもりなのでしょうか。本気で売れると思っているのでしょうか。私は素直に喜べません。
 何故この時期にAOR物のリリースが続くのでしょうか。業界関係者の方々の様々な努力が今やっと実を結んだということなのでしょうが、下手するとAOR物が「20世紀の遺物として永久に葬られる」のではないかとの不安の方が大きくて仕方がありません。詳しくは別のページで書きたいと思っていますが、今の日本のレコード業界は実に末期的で、「良いものを残す」とか「文化継承の担い手(本当は音楽を文化的な価値で語るのは本望ではないのですが、ここでは便宜的に文化財としての価値を強調させていただきます)」といった自覚はまるで感じられません。そんな連中に目を付けられた愛すべきAOR。調子に乗って「あれも出して、これもCDにして...」なんて無責任なオファーを続けるのは自殺行為だと断言します。何が無責任か...。幼児を一人で駅から送り出して電車に乗せるような所業と同じだと思うからです。鉄道会社の職員や周囲の心有る大人たちの温かいサポートにより、その子は無事に目的の駅に辿りつけるでしょうが、そんなことを子供にさせた保護者は大いなる顰蹙を買うことは間違いありません。世に送り出された名盤CD達は、その価値を分からぬ子供たち(この子たちには何の責任も非もありません。この子達も無策なレコード会社の愚行の犠牲者なのですから)に弄ばれたあげく捨て去られ、自覚も良心もないレコード会社の経営者たちに「売れないアルバム」の烙印を押され、以降二度と日の目を見ぬまま永久にお蔵入りすることなど明らかじゃないですか。
 かつてのトレンディ・ドラマの挿入歌として、そして昨今のR&B全盛のクラブシーンにて「Light Mellow」などと呼ばれてもて囃されていたりと、様々なシーンにおいてAOR物に注目が集まっているのは確かな現実として認めましょう。しかしそれは決してAORが正当に評価された結果ではないと思います。AORブームは80年の中庸で既に消滅し、90年前半の一時的な盛り上がりを経て、これからは定着させる時を待っているべきものだと思っていました。これをこんな勢いで盛り上げちゃったら定着を通り越して一気に奈落の底に落とされても不思議じゃありません。これはレコードを商品として扱っている以上、マーケティングの基本理論として辿る自然の流れです。
 Tony ScuitoやらWilson Bros.など待望久しい絶賛にあたるCD化もありますが、だからといってせっかくリリースされたCDがその後どうなるかなどと考えたことあるのでしょうか?。奇跡のCD化実現に手放しで喜んだり、安易に同調してレコード会社の担当者を煽っている関係者の方々は、自分のCDコレクションを増やして、それだけで良いというのでしょうか。
 どんなマーケティング活動をしたら一連のCDが売れると思ったのでしょうか。一部の愛好者や心有る大人達がなけなしの私財を投じてその保護・確保をしたにしても、それは河川の汚染を減らそうと残った味噌汁をシンクに流さないとか空き瓶を燃えないゴミとして出さずに資源ゴミ回収にまわすとか、そんな(実は大した意味の無い)努力と同じではないでしょうか。もし本気で環境保護を考えるのなら、もっと違うところから手を付けなければならないのは皆さんご存知ですよね。事が全人類の存亡に関わることなので、こうした地道な努力が積み重なって大きなものとなるとは思いますが、もともと愛好者の限られているAORのアルバムのこと...一介の愛好家たる私達がサポートできることなどたかが知れています。
 繰り返しますが、(少なくとも)私が望むのはAORがブームになることではなく、半永久的に定着していくことです。定着すればリアルタイムで知らない子にだって、世代交代しつつ未来永劫語り継がれ、聞き続けられていくのです。変に煽ってブームを作って捨て去られていった愛すべきものがどれだけあったことか...。AORの名盤をマニアックでカルトなものにしてきいけません。あの時がそうであったように、気が付けばそこに流れていた音楽... AORはそうでなくてはいけません。そうする手立てがあってリリースをしているのなら、その努力に対して賛美は惜しみません。そこまでの覚悟があるとはとても思いません。無策(または埒でもないキャンペーンのみ)のままリリースしたCDを放置して、そのまま埋もれさせたらその責任は重大です。無責任に突っ走る輩の尻拭いなどは御免です。このブーム(らしきもの)が去った後の責任は、このブームの渦中にいる人達にきっちりと取ってもらいましょう。お手並み拝見です。

※興味深い話があります。吉田美奈子を好きなレコード会社のディレクター氏が、未だCD化されずにいる名盤『BELLS』のリリースについて、美奈子本人にCD化の打診をしたところ一蹴されたそうです。理由は「CDにして、そのCDをあなたが欲しいだけでしょう...」だとか。自分の愛すべきアルバムがぞんざいな扱いされるのであれば出さない方がマシだということです。これは実に正しい考え方だと思います。そのCD出してどうする... そのアルバムを愛していればいるほどそこが肝心なのだと、私も思います。

(1999/07/25)



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